東京高等裁判所 昭和57年(ラ)732号 判決
代替執行の授権決定は、すでに存在する右債務名義に表示された抗告人の相手方に対する代替的作為義務を実現するための執行方法にすぎないから、その申立については強制執行の一般的要件のほか、代替執行の要件の存否が審理の対象となるだけであって、「抗告人の主張」(一)、(二)及び(六)のような実体上の理由は審理の対象となり得ず、したがって、これらを抗告の理由とすることもできないものというべきである。
記録中の前記和解調書正本(編注―抗告人・相手方間の横浜簡裁昭和五四年(イ)第八号事件)によれば、同和解調書の和解条項第七条には「相手方(本件抗告人)が前条の義務を賃貸借終了の日から起算して七日以内に履行しないときは、相手方の本件土地上の一切の物件に対する権利は、申立人(本件相手方)に帰属するものとし、申立人に於て、直ちに任意処分することが出来るものとし、右処分により得られた金員は申立人の所得とする。」との定めがあるが、他方、その第六条には「本賃貸借が終了したときは、相手方は直ちに本件土地上の一切の物件を収去し、本件土地を原状に回復して、申立人に明渡さなければならない。」との定めがあることが明らかである。そこで、右二つの条項を整合性の見地をも加えて比較検討すると、それらは、相手方に対し、第六条により明渡請求をするか、第七条により所有権を取得するかの選択権を与える趣旨のものであると解するのが相当であり、前者を選択した相手方の明渡請求に対し、抗告人か後者を援用してこれを拒絶することを許容する趣旨のものではないというべきである。
前記和解条項中に、抗告人において収去すべき建物が個々具体的に掲記されていないことは前示和解調書正本の記載上明らかであるが、債務名義自体による抗告人の作為義務の表示としては、前認定の「本件土地上の一切の物件を収去し、」という記載により、その特定に欠けるところはないと解するのが相当であ<る。>
(枇杷田 奥平 尾方)